イスラエル訪問記(口述)
この文章は3月3日の「木曜日の会」にて老師が述べられた提唱のなかでイスラエルに関する内容を抜粋したものです。当然「速記録」のなかに記載されています。
先月の十四日から二十七日まで約二週間にわたりましてイスラエルへ行って仏教の話をしてきましたので、そのことを最初にご報告いたします。
まず、なぜ行ったかということでありますが、私がもう二、三十年前に書いた本だと思いますが、いまアメリカにいるジェフリー・ベイリーという人と書いた本で『ツー・ミート・ザ・リアル・ドラゴン』という本があります。それは「本当の龍に出会うために」という意味でありまして、「本当の龍」というのが坐禅を意味しており、また仏教を意味しているわけであります。その本が海外では意外に評判が良くて、最近この道場に所属しているエリー・クラベッツという人とシャロン・クラベッツという、この二人は夫婦でありますが、それをヘブライ語に翻訳してくれたわけであります。その出版社が出版記念の会合をやりたいので来てくれという話がありまして、それに従って出かけたということが実情であります。
エリー君とシャロン君のほかに、この道場におります泰純君とか、あるいは優君佳さんとか、あるいは大阪の正眼会に所属していて、先日まで京都の妙説庵の坐禅会の世話役をやっていた宮本一郎という人と私と六人で出かけたということが実情であります。
向こうでは非常に日程が詰まっておりまして、テレアビブ大学で三回とか、あるいはバーイラン大学で一回とかいうふうな形で、そのほかにテレビの対談とか、あるいは新聞記者との対談というふうなことで、毎日二つ、三つの行事が重なるというふうな形であったわけであります。向こうの人は非常に勤勉でありますから、そういうスケジュールもけっして珍しいことではなくて、ごく当たり前のことのような形でそういう行事が進んだということが実情だったわけであります。
向こうの人は仏教の考え方にやはり非常に熱心であります。ただ、イスラエルという国は八〇%ぐらいがユダヤ教の人で、あと残りの二〇%が仏教その他で分かれているわけでありますが、人数的にそう多いわけではありませんが、仏教に対する取り組み方が非常に熱心だというふうなことがあって、向こうに行ったときにも三ヵ所ぐらいの坐禅をする団体でやはり話をしたり、あるいは実際に坐禅をしたりというふうなことも行なわれたわけであります。
私の話につきまして、話が終わりますと必ず質問をする時間を取ったわけでありますが、その質問が非常に活発でたくさん出て来た。そしてまた、たとえば「苦しみに出会ったときにどうするのか」というふうな質問が出ましたので、私が「それは我慢する一手だ」という例の話をしますと、みんながワァーと笑って、何回もそういうふうに大きな声で笑うというふうなことがあったわけであります。
それがどうしてかといいますと、現地の人々は宗教というものは非常に暗いもので、精神的で、また、わりあい消極的な考え方だという通念がありますから、現実の事態に即してありのままの事実を見ながら素直な態度で生きていくというふうな考え方が非常に珍しいという感じを受けたんだということがあったようであります。
いずれにしましても、世界の情勢からしますと、やはり今後も世界の思想問題についての一つの中心になるというふうな土地柄でありますので、そういうところで仏教が盛んになるならば、仏教の普及のためにも非常に意味があるのではないかというふうな感じを受けてこちらへ戻って来たということが実情であったわけであります。
質疑応答
問 前話のお話で、イスラエルというと八〇%がユダヤ教ですから、いわゆるキリスト教以上の観念論とわれわれは思っているんですけれども、そうすると仏教は、先生の説く仏教とイスラエルの現実の方々の接点といいますか、どんな点で仏教で一番共感を得たのか、それからまた反対のところはどこにあったのか、そのあたりをちょっとお願いします。
答 うん、その点はね、イスラエルの人は非常に多くの人が現実主義者です。なぜ現実主義かというと、ユダヤ民族はイスラエルという国家を持っていたけれども、古代にローマ帝国に滅ぼされているんですよ。そこで、ユダヤの民族は民族ではあるけれども国がなかった。そこでよその国に行って経済活動をしていると、しばらくすると経済活動で優位に立ってしまう。そうするとそのユダヤ人を入れていた国は面白くないから追い出せということで追い出した。そうするとよその国へ行ってまた一所懸命生きていると、経済的に優位に立ってしまう。そうするとまた追い出される。そこで何千年もにわたって流浪の生活をしていたんです。そのときの経験が今日のユダヤ民族の文化をつくっているということがあると思います。
だから、よその国がユダヤ民族があまりにも優秀だから面白くないということで迫害をしたことが、ユダヤ民族を今日のように優秀な民族にしてしまったということが歴史的な事実だと思います。
問 仏教も、その中で先生が坐禅とかいろいろな講義をされたと思うんですけど、どの点が一番関心があり、非常に興味を持ったところなんでしょうか。
答 うん、向こうの人がやっぱり一番興味を持つのは坐禅です。
問 ああ、そうでしょうね。ユダヤ教にはないんですか。
答 ユダヤ教にそういうふうな修行法というのは、ただ、実践的な教えというのはあるようです。特に神秘主義という西洋思想があるんです。つまり「頭の中で考える世界以外の世界」という考え方があって、そういう考え方はユダヤ教の中に非常に強くあるようです。
問 フランスとかヨーロッパでは坐禅というのが非常に盛んなんですけど、イスラエルの国自身ではそういうグループとかいうのはたくさんあるんでしょうか。坐禅を専門にというのは……。
答 それはかなりあります。ただ、やっぱり政治的に力を得ているのはユダヤ教だということですから、その点でそれなりの制約はあると思いますけど。